長野県優良企業視察研修レポート

期 間:2023年10月17日~18日
参加者:13名

(特別寄稿 カンケンフローシステム(株) 社長 飯野 勝久)

 次世代経営者の会主催による優良企業視察研修が10月17日~18日にかけて実施されました。コロナ渦で2020年以降開催することが出来ませんでしたが、今回は次世代経営者の会に若いメンバーが多数入会したこともあり、久しぶりの視察研修となりました。

今回は、長野県の優良企業である、米澤酒造株式会社・伊那食品工業株式会社・エプソンミュージアム諏訪・株式会社デリカを訪問又は見学をさせていただきました。

まずは、南信州の中川村にある米澤酒造株式会社を訪問しました。残念ながら蔵の見学ができないため、酒造りの様子はビデオにて観ることになりました。造り酒屋は中川村の大切な伝統・文化であるということと、明治40年創業の米澤酒造が、地元の酒米を使用し、丁寧な酒造りをされてきたということが非常によく分かりました。しかし、米澤酒造は近年の後継者問題や設備の老朽化により、経営が悪化し続けたそうです。ここで支援の手を挙げたのが、次に訪問する寒天メーカーの伊那食品工業です。後で聞いた話ですが、伊那食品工業が積極的にM&Aを実施したのではなく、伝統ある造り酒屋を残したいという中川村が後押しをし、それに伊那食品工業の最高顧問である塚越氏が共感しM&Aが実現したそうです。伊那食品工業グループとなったことで、老朽化した蔵や設備が一新され、伝統と新しさがうまく合わさった地酒が出来たといい、うまく2つの会社が融合したのだなと感じました。

説明を聞いた後は、直営ショップで試飲。1年通じて購入できる「今錦」、季節ごとの期間・数量限定の「おたまじゃくしシリーズ」や、次に訪問する伊那食品工業でキーワードとなる「年輪」などがありましたが、いずれも飲みやすく美味しいものばかりでした。

試飲はほどほどにして、次に米澤酒造の親会社である伊那食品工業株式会社を訪問しました。会社案内のビデオを観させていただきましたが、その中で創業者の塚越最高顧問が語った内容とは、利益を上げることを第一の目的にするのではなく、(もちろん利益を上げることは大事であるが)社員やその家族全員が幸せになるということが企業の目的にならなければならないということでした。つまり「社員の幸せ」が目的であって、「会社の利益」は手段であるということでした。伊那食品工業が目指す組織は「家族」であり、家族であるなら、成果主義より年功序列を大事にしていこうということで、昔ながらの年功序列の給与体系を変えることなく実施しているというのです。現在では成果主義に重きを置く企業が多くなっている中、日本的な経営、つまり年功序列を大事にしているということを聞いて、驚きでした。伊那食品工業の社是がシンプルで分かりやすく、「いい会社を作りましょう」というもので、『経営者は「社員の幸せ」のために心を砕く!』つまり『社員に気を遣い親身になって考える!』でなくてはならないというのです。「良い会社」でなく「いい会社」というところが率直に良いなと感じました。利益など帳簿上で評価された「良い会社」だけではなく、会社に関わる方々が「いい会社」だねーと言ってくれるような会社にしたいということらしいです。私自身、社員に寄り添った経営をしているつもりですが、改めて心に響きました。年功序列だけが良いとは思いませんが、「社員の幸せ」のために信念を貫くことが、経営者として大事なことなのではないのかなと感じました。(「良い会社」ではなく「いい会社」へ。)

そして伊那食品工業株式会社を語る上で、出てきたキーワードが「年輪経営」です。先ほどの米澤酒造の銘柄でもある「年輪」ですが、「年輪経営」とはどういうものかというと、樹木の年輪が毎年必ず1つずつ増えていくように、企業も少しずつ成長し永続していくものだということです。起業したばかりの若い会社は勢い良く成長していくのが良いのですが、ある程度の規模に達したら、成長のスピードを緩めて少しずつでも確実に成長し続けることが大切、つまり会社を経営する上で大切なのは、利益の多さや成長の速さではなく、末広がりに少しずつ成長し永続していくことだということです。この話を聞いて、皆さんが共感できたのか分かりませんが、少なくとも中小企業の経営者としては共感される方も多いのではないのでしょうか?

伊那食品工業は、福利厚生にも力を入れています。例えば、社員全員にがん保険を掛けたり、毎年実施する社員旅行では国内5万円・海外9万円の旅費を補助しているそうです。社員旅行は、会社が決めるのではなく、社員それぞれでグループを作り、企画書を作成して申請するというやり方で自由に決めることができるというのです。そんな伊那食品工業に入社したいという方が後をたたず、世間でいう人手不足というものは感じたことがないといいます。社員のために動いている会社であるということを、地元の方々は良く知っているので、「いい会社」として魅力的に感じてくれているのでしょう。そんな「いい会社」を作りたいものですね。

と良い話を聞くのはあっという間に時間が過ぎ、隣にある売店でお土産の寒天食品をたくさん購入したのちに、宿泊施設がある早太郎温泉へ。早太郎温泉では、皆さんと懇親を深めることができ、いつも話ができない方々もゆっくり交流ができたのではないでしょうか。

2日目は、国内にある最も古い神社の一つである諏訪大社を参拝した後に、3社目となるセイコーエプソン株式会社のエプソンミュージアムを訪問しました。2班に分かれて、創業記念館と再生プリンターを見学しました。創業記念館では、セイコーエプソンの創業時からの流れが事細かく記載・展示されておりました。創業時の流れを説明すると、創業者の山崎久男氏が1942年に時計を製造する「大和工業」を創業し、その2年後に東京の時計専門工場である「第二精工舎」が疎開のため諏訪市に移転、「第二精工舎諏訪工場」として、2つの工場が一緒に操業していたそうです。その後、2社は1959年に「諏訪精工舎」という名前で合併しました。そして、諏訪精工舎の子会社であった「信州精器」が「エプソン」と社名を変更し、1985年に「諏訪精工舎」と「エプソン」が合併して現在の『セイコーエプソン株式会社』という名前になったそうです。

なぜ時計事業である会社がプリンターを作ることになったのかというと、東京オリンピックでデジタルストップウォッチが採用されたからです。その機能にストップすると1/100秒の数字まで印刷するプリンティング機能をつけたことで、クレームゼロのオリンピックが実現したことが高く評価され、プリンター事業が躍進していったそうです。社員や技術者たちの絶対に品質を上げてやるという思いと、絶対にあきらめないという思いがあったから高く評価されたのだと感じました。

次は再生プリンターの展示棟を見学しました。その名の通り、使用済みの紙を投入して再生紙を作る機械で、販売もしているそうで約2000万円。誰が買うんだろうという気はしますが、市町村や銀行などに売れているそうです。今後コストダウンや小型化をして、一般企業に普及をさせていきたいとのことです。また、ペーパーレス化が進んできている中で需要があるのかという質問に対しては、パーペーレス化といえども、紙は無くならないので私たちは継続してやっているとのことでした。

最後に訪れたのは、農機具メーカーである株式会社デリカです。金子社長より説明を受けた後で、会社案内のビデオを観させていただきました。デリカの主力商品は、トラクター用の作業機とそれをトラクターに繋ぐ3点リンクです。それらを独自開発の生産管理システムで設計・製造・組立・販売・会計まで一貫して行っているそうです。デリカの特色として挙げられるのは、各工程での同期を完璧に管理しているということです。時間があっても先に進んではいけないという基本ルールのもと、各工程で組立の前に持ち込むのは今日作るものだけということを徹底しているそうです。そして、「次工程はお客様」という言葉が若い社員から出ていました。品質の良い製品を届けようと高い意識のもと作業をされているのが良く分かり、社員教育も徹底していると感じました。

次に組立ラインの工場見学をさせていただきました。近年ファイバーレーザー加工機を導入し、以前の加工機と比較して、スピードが2倍、製造長さが3Mから4Mへ拡大し、加工品のほとんどを内製できるようになったそうです。また、塗装ラインでは粉体塗装を採用し、大型の製品を一貫して塗装できるのが強みだそうです。これらのように外注せずに自社で出来ることを増やすことで、各工程の同期が出来る要因の一つだと感じました。

最後になりましたが、2日間優良企業の視察ができて、それぞれの企業の考え方を肌で感じることができ、有意義な時間を過ごせました。また、参加された方々との懇親も深めるとともに、次世代の経営者としてどうしていくべきなのかを率直にお話しできたかと思います。今回の視察でお世話になった関係者の皆様には、貴重なお時間を頂きまして感謝申し上げます。ありがとうございました。